第12回翻訳コンクール 二次審査講評

今回で三年連続、最優秀者の該当者なしとなってしまった。残念だが仕方がない。主催者側としては、優秀な文芸翻訳家を世に送り出すのが眼目であるため、不本意な結果ではあるのだが、かつてどこぞの翻訳学校の卒業生が一冊出版しただけで次々に、すぐに消えてしまったのを目の前で見てきただけに、ここはお互いにぐっと踏ん張るところだろうと思う。
 
二、三年でプロにします、というような謳い文句で生徒を募る詐欺紛いの翻訳学校が横行している。もちろんもっとも非難されるべきは主催者側であるが、私に言わせれば、それに引っ掛かる人もほとんど同罪。詐欺の片棒を担いでいるようなものなのだ。
文芸翻訳家になるには、作家と同じ、あるいはそれ以上の日本語の〝筆力〟と〝感性〟が要求される。文芸翻訳は、原語(英語)を読みやすい日本語にするだけではまったく不充分。まさに〝文は人なり〟であって、チョコチョコとやって生活費を稼ぎたいと考える人の文章でプロになるのは難しい。
 
閑話休題。まあ、そのようなわけで、弊社の翻訳コンクールはプロを量産するためのものではないことを承知していただきたい。と同時に、このコンクールで最優秀者に選ばれた方には百パーセントの自信を持っていただきたいし、長く翻訳家として活躍していただきたいと願っている。
 
今回、優秀者の方が五名いらっしゃる。もう一息のレベルなのだが、いずれも(ケアレス)ミスの多さが気になった。あの程度のページ数で、たとえば五箇所のミスがあるとすれば、一冊の本では、単純計算でもおそらく数百箇所になることだろう。とても一冊の原書をお任せするわけにはいかない、ということがご理解いただけると思う。
では、ミスの多かった箇所をチェックしてみよう。なお、今回のテキストは一冊の本から抜き出したものなので、前後を読まなければわからない部分は評価から基本的に外してある。
 
【ポイントチェック】
* p.1, 20行目 But it seemed intensified, hyper-real.
色彩があまりにも強烈で、現実離れして見える、ぐらいだろうか。
 
* p.2, 14行目 Other than that I’m happier than hell.
そのほかは文句なしよ。地獄にいるよりはまし、という意味にも取れなくはないが、これは、(皮肉な意味を込めて)とにかくサイコーの意。
 
* p.2, 下から9~8行目 Anybody with air in his lungs could tell there’s more.
  誰にだって何かあることはわかる、の意。Anybody with air in his lungsは(生きている)人間のことだし、tellはknowまたはunderstandと同意になる。
 
* p.3, 11行目 That might make a difference to us both.
ぼくたちだってどうなるかわからないよ。これは文の最後にlater onを加えて考えればわかりやすい。つまり、ぼくたちも(後で)後悔することになるかもね、の意。
 
* p.3, 下から13行目 The service was unorthodox by denominational standards, a Church of New Life trademark.
彼の礼拝は、いかなる宗派の基準からも外れているが、それがチャーチ・オブ・ニュー・ライフの宗派の売りになっている。
 
* p.5, 2行目 Buddy, can you spare a quarter for a little wine?
このwineは文字通りワインだろう。酒でもおかしくはないが、安酒の代名詞としてワインをわざと使ったと思われる。
 
* p.6, 11~14行目 He had known the man who attacked ~ then bludgeoned the door full of holes with a baseball bat when the zone came out crooked.
(何事にも熱狂する父親が)息子のためにガレージのシャッターにストライクゾーンを描いてピッチングの練習をさせたのはいいが、そのストライクゾーンが歪んでくるとバットで叩いて直そうとし、結局はシャッターを穴だらけにしてしまった、の意。
 
* p.6, 19行目 ~crisscrossing his way out Central Road, ~
ジクザグに(バイクを)走らせる、の意。
 
* p.6, 下から14~11行目  Wade had drunk profusely ~ his father had taken on that glazed look of a drinker who simply cannot put himself under.
父親は、いくら飲んでもどうしても酔えない男がよく見せるとろんとした目付きをしていた。しかし父親の顔をときおりよぎる捉えがたい暗さは、その時まだ見当たらなかった、の意。
 
* p.6, 下から6行目 He understood: it had been coming all night.
その夜は最初からその兆候があった → そうなるべくしてなった、の意。こういう文章は間違いたくないところだ。
 
* p.7, 10~11行目 He had tried to take advantage of her in a way that men could do to women.
この文章は、ぶん殴ったのかレイプしたのかちょっとわかりにくい。まあ、内容からすれば、力ずくで犯したということだろう。 
 
* p.7, 19~20行目 : after all, it was rather simple, wasn’t it?
(子供が理解するにも)そんなに難しいことじゃない、の意。
 
* p.8, 1行目 I owe it to whoever else might be next.
ここは、前後を読まないかぎり正確にはわからないところ。念のために言えば、次の被害者が出ればわたしにも責任がある、の意。
 
以上です。我々は今後とも、きちんとした翻訳コンクールにするべく努力します。皆さまもまたどうぞ奮ってご参加ください。