第13回翻訳コンクール 二次審査講評

今回は一名、最優秀者が出現した。四年ぶりのことだ。主催者側としてはこんなに嬉しいことはない。福森さんの今後の研鑽と活躍を願ってやまない。
いつものことだが、数ページの短文で実力を評価するのは難しい。まず、ノーミスということが条件になるだろう。ミスにも、許されるミスと、明らかに実力不足と思われるミスがある。
ケアレスミス十箇所と、実力不足によるミス一箇所を比較した場合、やはり後者のほうが評価は低くなる。その点を考慮し、きちんと推敲して、ノーミスを目指していただきたい。
本テキストは、評者の大好きな作品からの抜粋である。詩的な表現が多く、原文のニュアンスを日本語で表現するのは楽ではなかったことと思う。それでは、ミスの多かった箇所をチェックしてみよう。

【ポイントチェック】
* p.1, 11行目 ~aid of a leftist general practitioner ~
左翼(左派)の開業医、ではあまりに舌足らずだろう。左翼思想に染まった、あるいはかぶれた、ぐらいか。

* p1, 下から9行目 ~because she simply didn’t care.
どうでもよかったからだ、という少々捨て鉢なニュアンスの訳が多かったが、もうひと工夫ほしいところだ。かつての恋人であり同志でもあるジップのことだ、グエンはFBIから何を訊かれ、自分がどう答えようと、その責任は取る、という意味で、she didn’t careだったのだろう。

* p1, 最終行 ~with their harmless small-town family lawyer.
このharmlessは人畜無蓋というより、今回の事件解決には役立たない、の意味だろうし、family lawyerは家庭弁護士ではよくわからない。町の馴染みの弁護士ぐらいだろう。

* p2, 下から16行目 ~Gwen shuddered thinking of ~
このshudderedは難しい。身震いした、という訳がほとんどだったが、評者には、ジップを弁護しようとするのになぜ身震いするのか理由が判然としない。(サンとのやり取りを予想して)武者震いした、お尻がモゾモゾした、居心地が悪かった、ぐらいか。

* p2. 下から6行目 Stuart pretended to watch her stir her whisky and water.
まずpretended to watch。これを、見る振りをした、と訳す人が圧倒的に多かった。翻訳学校でそのように教えているのだろうか。ここはやはり、ぼんやりと見つめていた、(~へ)目を逸らした、にすべきだろう。
それからstirだが、評者は、たとえばマドラーなどで掻きまわしているのではないと思っている。手にしたグラスをゆっくりと回している、だろう。しかし、ひょっとしたら間違っているかもしれない。

* p3, 1章の最終行 ~far to the interior of our dream coasts.
このthe interiorは、locationのこと。したがって、夢の(憧れの)海岸線からはずっと内陸側にある、の意。

* p3, 下から5行目 There is a pith, gist, saw, that ~
これは古いイディオムで、決まりきった言い回し、の意。常套句、もありか。

* p3, 下から3行目 The germ of truth here is ~
このhereは、野球がわかればアメリカがわかると言っている前の文章を指している。

* p3, 最終行 ~about a man.
このmanはやはり、人間というよりも、(大人の)男のことだろう。

* p4, 上から14行目 Billy’s (now) ex-wife knew it ~
(今では)元女房になるが、の意。

* p5, 上から5行目 ~ Billy’s reverse snobbism.
ここは、反スノビズムと訳しては意味が通らない。ビリーは充分にスノビッシュなんだが、それをストレートには表さない、の意。つまり、ひねくれた俗物主義ということ。

* p5, 下から7行目 ~ to the streets of San Francisco.
サンフランシスコの道路の(写真)という訳文が多かったが、それはどう考えてもおかしいだろう。当然、サンフランシスコの街頭でデモをやったときの(写真)だ。

* p5, 最終行 ~ in common with Zip.
ジップと金を出し合って買った、の意。

* p6, 下から8行目 ~ flipped a twenty into the beer collection of one-dollar bills
これはビール樽やマグを回して金を集めているのではない。ビール代金としてみんなが普通一ドル(むろん割り勘目的で)出すところを、思わず二十ドル札を出してしまったということ。

* p7, 上から13行目 ~ “ textual concertia” ~
これは訳しにくい。あまり自信はないが、(犯罪現場独特の、浅ましく、醜悪な、生の事実が感じ取れる)〝諸々の要素〟の調和、ぐらいだろうか。

* p8, 上から11行目 ~ somewhat benumbed San Francisco socialite ~
このbenumedは、ぼんやりした、の意ではない。サンフランシスコの名士であることに慣れてしまっている、の意。

* p8, 下から11行目 She, of late, was always hungry, ~
ここは深読みをするところではない。文字通り、最近の彼女はいつも腹を空かせている、でいいだろう。

 以上です。実は、講評するのも楽ではないのです。もし私の勘違いがあったなら、許してください。みなさんの折角の研鑽を祈ります。