第16回翻訳コンクール 一次審査講評

 
一次審査の合格者は20名。うち、A:5名、A-:8名、B:7名。
なお、この評価の内容については以下のとおり。
 
A+:当校研究室レベル
A :当校研究室レベルに今一歩
A-:日本語、英語力ともに一応の合格点
B+:日本語、英語力ともにもう少しの努力が必要
B :日本語は一応の合格点だが、英語の理解力がやや不足
 
 
 現在、弊社(柏艪舎)は丸山健二氏の英訳作業を進めています。日本が最も世界に誇り得る作家の作品を世界に広く知らしめるためです。来年初めには第一作目が英訳出版されますが、その出来立てほやほやの英訳分を今回、コンテストのテキストに採用してみたのです。試行錯誤の一環であることは間違いありません。
 まず、丸山文学に特徴的な、あの凛として透明感に溢れた文章を英訳したらどうなるか、いや、そもそも英訳が可能なのか。その点をわれわれがいまたきちんと把握していないままに出題したことは、いかにも冒険的だったし不適切だったとも反省しております。お許しください。
 それでも、喜ばしいことに、素晴らしい訳文も提出されました。これまで同様、一次試験突破レベル(A)に達したのは5名。しかし今回は出題に少し難があったため、従来は不合格のBレベルの訳文も二次試験に進んでいただくことにしました。計20名です。丸山健二氏の原文をお送りするので、ご自分の訳文と比較検討をお願いするしだいです。なお、二次試験のテキストは〝普通の〟小説を予定していますので、どうかご安心ください。
 このような試験の場合、応募者の訳文に赤が入って返されるのが通常のようですが、私(山本光伸)はそういうやり方に反対です。出題者側は、熱心なところを見せようと精一杯赤を入れるのですが、たいていそれは、アルバイトの学生がやっていることであり、勝手な解釈を押し付けられるだけで勉強する側にとってはほとんど役に立ちません。唯一効果的な方法は、プロの〝優れた〟訳文と自分の訳文をしつこく丁寧に比較検討することなのです。つまり、受身ではなく、自分の頭で考えない限り、進歩などするわけがありません。合格・不合格にばかり気を取られている方にその弊害が多く見られるようです。
 そうしていると、プロのよりも自分の訳文のほうがいいと思うことが出てくるでしょう。それこそが、進歩というものなのです。私の経験で言えば、先生の赤入れに慣れている方は、川岸まではなんとか行き着けても、ほとんどの場合、その水を飲む、つまりプロになることはないようです。
 ですから、私は余計な赤入れはしません。ただ、特に注意すべき箇所は指摘しましょう。
 
 
 ここでお節介をもう一つ。訳例とだいたい似ているからいいや、ではまったく進歩は望めません。似て非なるもの、の意味をしっかり意識してください。訳例のどこがいいのか、それを自分の目で見つけるのが勉強なのです。
 またくどいようですが、英文の理解力不足、プロットの解釈力不足からくる誤訳。これが一箇所でもあれば、合格はまず難しいということをご理解ください。筆一本で生きるということは生易しいことではないのです。
 では、みなさん、褌を締めなおして二次試験を頑張ってください。