第17回翻訳コンクール 一次審査講評

 
一次審査の合格者は13名。うち、A+:1名、A:4名、A-:3名、B+:5名。
なお、この評価の内容については以下のとおり。
 
A+:当校研究室レベル
A :当校研究室レベルに今一歩
A-:日本語、英語力ともに一応の合格点
B+:日本語、英語力ともにもう少しの努力が必要
B :日本語は一応の合格点だが、英語の理解力がやや不足
 
今回の出題は、ジャック・ロンドン作の「The Game」からです。人気のある若いボクサーが、普通の街娘に恋をして、次の試合を最後に引退し結婚しようとしている話です。内容はそんなに難しい話ではなく、一読して私(山本光伸)も理解できたつもりだったのですが、添削する段になって、いささかの面倒に引き込まれてしまいました。
 ちょっと現代風とは思えない文章が頻出したのです。生年月日からいけば、江戸時代の末から明治の始めにかけて活躍した人で、田山花袋と同年配の方なのです。田山花袋と同様、ジャック・ロンドンにも学ぶべき点は多々あります。しかしそういう方をこのような試験の例題にするのはいかがなものか。時代が違いすぎるのではないか。
 そういう反省点からして、今回、私は“いささかの面倒ごと”と思われる個所を重点的に捉えて、皆さまと一緒に考えてみたいと思います。どうぞご理解ください。
 
【ポイントチェック】
① p1, 17行目
“What’s the good of worrying ?” he questioned. “It’s the last go, the very last.
 これは私の錯覚かもしれませんが、このようなgoの使い方は初めて目にしました。ボクシングの試合、の意味なのですね。
 
② p1, 18行目~20行目
He smiled at her, ~, and with the instinctive monopoly of woman for her mate, she feared this thing she did not understand and which gripped his life so strongly.  
 文章のほうはお渡しした訳文のとおりですが、私は、monopolyの訳文選びに苦労しました。この言葉の選択如何で、その後の文章が代わってくるのですから。皆さんはどうですか。
 
③ p2, 26行目
He smiled indulgently, concealing a hurt, から8行先のshe found in him to make him worthy. まで。
私はこの文章に参りました。たとえば一行目の not altogether new, がなかなかピンときませんでした。意味は、「それは今に始まったことではなく」、なのですが、私にはどうしてこのような形を取るのか未だによくわかりません。
続いて、5行目のIt was the merit of work performed, a guerdon of manhood finer and greater ~ です。今になってみればどうしてわからなかったのかと不思議な気がしますが、それはやはり、guerdonという聞き慣れない単語と文章の並べ方にあるのでしょう。
そして最後の、~ to make him worthyです。これは訳例の、男を上げる。よりも、彼の真価を認めさせる、ではないかと思います。
 
④ p4, 27行目~31行目
Joe had replied sturdily enough, ~ when they strive after clean living and morality.までの五行。
 この5行も、私にとっては難問でした。私はだいたい辞書を引かずに読もうとするのですが、その方法がほとんど効果を見せてくれないのです。そして今、単語を調べて一語ずつ翻訳してみれば、どちらかと言えば単純な文章だとわかります。こういうことは滅多にないことでした。
 
今回の課題は一読してわかりにくい文章だなと思いましたが、訳として間違っていなくとも一読して意味が掴めない、あるいはただの英文和訳になっている、という訳稿も散見されました。原文に引っ張られず、ご自分で内容を咀嚼し文章を作り上げるということを意識していただきたいと思います。
いずれにせよ、諸君は訳例を頼りにじっくりと検討してみてください。今回は、少しあやふやな訳をされている方も二次審査へ回しましたから。次のチェックはもう少し“理性的”になるとお考えください。
それからもう一つ、次回からは比較的新しい作品を課題に取り入れようと思います。やはり、我々が望むのは現代作品の翻訳家なのですから。
それでは、今回はこれでお許しを得たいと思います。皆さん、どうぞお元気で。