第17回翻訳コンクール二次試験審査 講評


さて、第十七回の翻訳コンクールの結果発表です。
本作品は、私が何十年か前、翻訳家として初期の頃に訳出したものです。しかし作品内容が良くて、以後何度となく読み返し、その都度満足の溜息を漏らしたものでした。
私の翻訳もお送りしますが、お楽しみいただければ幸いです。
今回、十三名の方が二次審査に進みました。うち最優秀者が一名、二名が優秀者となりました。
最優秀者は、masayoさんといいます。本文中の添削はほんの数箇所、素晴らしい出来でした。おめでとうございます。今後のご活躍を祈ります。
さて、優秀者の方に関して、いくつか気づいた点を申し上げましょう。今後の翻訳勉強に役立ては幸いです。
 
たとえば、「ずっと演れる新しいクラリネットを」⇒「新規のクラリネット吹きを」でしょうし、「少年はテーブルでひとりきりの夕食のつづきを片付けようとした」⇒「少年はテーブルで一人きりの夕食をつづけた」のほうがわかりやすいでしょう。
それから、「そっちの方が馴染みがあるし、審査員の皆々様にも、うまい、下手がよくわかるだろう」⇒「有名な曲のほうが、審査員にも比較しやすいだろう」でしょうし、「ヴァージルがきびすを返しかけると」⇒「帰ろうとするヴァージルに」としたほうが当意即妙に思えます。さらに、「悪態をついたのは喋りを担当するほうで」⇒「話し役の男は忌々しげに毒づき」としたほうがわかりやすいと思います。
全体的には皆さんの出来が良かったのですが、逆にそれが審査を厳しくしました。たとえば、「今年は誰に投票するのかお尋ねするのは、倫理に反するのでしょうな?」⇒「ついでといってはなんですが、今年の審査結果をお教えいただくのは無理でしょうな?」
これは今回の例題のなかでも難しかったところです。最初のような解答がほとんどでしたが、私は原文にはない、「ついでといってはなんですが」のような一文がどうしても入ってきます。それからもう一つ、倫理、節度、と言ったような単語はここでは使いたくありません。
 
かように、今回は皆さんの出来がよかったと思います。次回が楽しみです。またご自分の訳と私の訳例を読み比べていただければ幸いです。
翻訳者は、原文を翻訳することが仕事ですが、その作品を読む人への配慮も肝要です。私は、読者への配慮を一番重要視します。読者に心から楽しんで読んでいただかなくては意味がないのです!
これには別の意見をお持ちの方もあるでしょう。それはそれとして、私は日本語訳として“読んで楽しいもの”を良しとします。つまり言い換えれば、原文がどれだけ凝っていようと、和文がつまらなくては意味がないということです。
 
インターカレッジ札幌 代表 山本光伸